ニッポン硬貨の謎/北村薫
- 作者: 北村薫
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/06/30
- メディア: 単行本
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だが、ミステリとして普通に接した場合、残念ながらこの作品は失敗作であろう。クイーンは《日本》と《シャム双生児》に気を取られ、事件に介入するタイミングが遅い。また、ネタそのものの処理も若干詰めが甘い。この方向性のネタなら、更に徹底的な描出が必要だし、そもそも五十円玉二十枚に関してはこじ付けが過ぎよう。一言で説明できるようなネタじゃないと……。
しかし、その失敗気味のネタでさえ、方向性は、明らかに後期クイーンのものなのである。実作において、ここまでクイーンの本質に肉薄した《綾辻以降》はいなかった。これに比べれば、法月綸太郎でさえ周回軌道をぐるぐる回っているだけだ。ましてや有栖川有栖など、単なる僭称者に過ぎない。小説としては微妙な評価を下さざるを得ないが、これはこれで偉大な仕事であると考える。クイーン・ファンにはお薦め。というか必読。この一作で《世論》《定説》が形成されかねないし。