不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

HERATBLUE/小路幸也

HEARTBLUE (ミステリ・フロンティア)

HEARTBLUE (ミステリ・フロンティア)

 前作は、ファンタジー要素が唐突に紛れ込んで戸惑った。そこで今回は、ファンタジー・ミステリだという前提で読み始めた。対策はこれで完璧……だったはずなのだが、SF要素が唐突に紛れ込んで来て、やっぱり戸惑った。
なおSF要素の扱いについては、ちょっと手続が甘いところがあった。「ある事項」をおこなうことは「超常現象」でも「架空の技術による故意」でも可能であるのに、故意の場合には悪意が推定されるようなときには、後者が全く顧慮されないのである。端的にいえば、知り合いは善意に違いないというフィルター補正がかかっているのだが、このフィルターは、たとえば「近しい人の死の原因」という重大問題にも適用されるべきものだろうか。
 作品内における真実は、「幽霊」が「ある事項」を起こしたというものであり、これによって読者は人の運命や業といったものを印象付けられる。ここら辺の読み口はなかなか素敵だ。ゆえに、当該人物が最終的に運命を受け容れる決着には異論などない。しかし、作品内でわざわざ超現実的な科学技術を持ち出した以上、その設定を常に意識して作品は構築されるべきだと思う。
 個人的な好みからさらに付け加えれば、「いい話」は善意のみで構成しなければならないわけではない。善意のすれ違いが生む悲劇も無論素晴らしいが、(ありもしない)悪意があるのではないかと疑心暗鬼に駆られつつ、しかしその疑惑を乗り越えて善意が顕現するのもまた乙なものだ。読みやすく、また印象的なエピソードも多い作品なので、光と闇で隈取を付けても良かったのではないかと思う。