不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

八月の熱い雨/山之内正文

 便利屋《ダブルフォロー》を営む、皆瀬泉水(25歳)が依頼された先で出会う、日常の謎の数々……。
 ミステリとしては謎も解法も真相もしょぼ過ぎて話にならない。個人的には『なんでも屋大蔵でございます』*1の爪の垢を煎じて山之内正文に飲ませたい気分だが、まあ今は措こう。ミステリ云々を無視して、それでもなお大きな問題と感じたのは、登場人物が悉く善意に支配されていることだ。第四話「片付けられない女」に顕著なように、全てを善意に、そして無理めな幸福に捻じ曲げるので、読んでいて非常に居心地が悪かった。人間関係が本来的に孕む《問題》を作家が直視せず、幸せ回路を発動させているとしか思えない。創元社の“Webミステリーズ!”での【ここだけのあとがき】も読んだが、納得しがたいものがしこりとなって胸に残るのであった。
 もっとも、文章はしっかりしているし、作品内のパースペクティブは上々なので、人情話が好きで好きで堪らない人は楽しめるはずだ。

*1:これが至高の大傑作だと主張する気はない。念のため。