蜂の巣にキス/ジョナサン・キャロル
- 作者: ジョナサン・キャロル,浅羽莢子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/04/22
- メディア: 文庫
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今回は、完全にミステリ。ホラーやファンタジーの要素はない。しかし、物語の要所に埋め込まれた、人間の心の闇に潜む何かが、クライマックスに向けて徐々に姿を現してゆくような感興があって、ここら辺の不気味な情感は完全にいつものキャロル、素晴らしいキャロルである。ミステリとしての出来栄えもなかなか堅牢であり、ガチガチの本格としてはともかく、スリーピング・マーダーものとしては水準を優に超えるものと言えるだろう。だが最も素晴らしいのは、男と女、父と娘の姿が、感情の襞に至るまで精妙に描き込まれているということだ。やはりキャロルはキャロル、いい仕事をしてくれているのである。
とは言いつつ、キャロルの素晴らしさを理解するには、やはりダーク・ファンタジーと呼ばれているような分野の作品を読んだ方が手っ取り早いようにも思う。「キャロルが書いたミステリってどんな感じなんだろ?」という興味を持てる人が読めば、快楽をもたらしてくれる作品と言えるだろう。