不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

古時計の秘密/キャロリン・キーン

古時計の秘密 (創元推理文庫)

古時計の秘密 (創元推理文庫)

 18歳のナンシー・ドルーはある日、トラックを避けて川に落ちてしまった少女ジュディを助ける。そしてジュディや彼女の大おばから、金持ちの老人ジョサイアの遺産を、強欲なトプハム家が無理矢理独り占めし、ジョサイアに援助されていた人々が困っていることを知る。ナンシーはジョサイアが、遺産を皆に分配するような遺言状を作成していたに違いないと信じ、探偵活動を始めた。
 書店ではキャッチーな表紙で目立っているナンシー・ドルーものの第一弾。論理だった推理は皆無で、思い付きがたまたま全部当たるだけ(ちなみにピンチに陥る場合も、全部偶然そういうシーンに出くわしただけ)という内容であり、ミステリとしては肯定的に評価できない。しかし基本的に善意に満ち溢れ、ごくごく一部の人間だけが120%悪意に染まっているという単純な色分けができる世界を丸ごと受容すれば、スピーディーかつ要領よく進むストーリーに引き込まれるかもしれない。優しくて活動的な女の子が、同情を寄せる相手にハッピーエンドをもたらさんと頑張る小説として捉えれば、それなりに面白く読める。
 18歳にしては主人公の思考回路が幼稚なのは気になるし、大人たちもナンシーの無茶を止めないのも不思議で、特にナンシーの父親は、結構有能であるらしい弁護士なのに、娘の行状を叱責しないばかりかニコニコしつつ後押しするのは理解できない。が、まあこれはジュブナイルだからあえて全てをシンプルに割り切ったんだと考えればいいのかも知れない。まずはうるさいことを言わず、活き活きとしたナンシー・ドルーの活躍を眺めておけば良いのだと思う。