不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

サルバドールの復活/ジェレミー・ドロンフィールド

サルバドールの復活〈上〉 (創元推理文庫)

サルバドールの復活〈上〉 (創元推理文庫)

サルバドールの復活〈下〉 (創元推理文庫)

サルバドールの復活〈下〉 (創元推理文庫)

 ゴシック調の舞台装置を配しつつ、学生時代から今に至る心の葛藤やら、老いた貴婦人の亡き息子や家系への執着やらを、多角的に、しかも美文をもってネチネチと描いてゆく小説。登場人物は、超尊大/鬱屈/痛い馬鹿の三種類に大別される。そしてこれ以外はいない。プロットは基本的に枝葉が多く、なくてもいいエピソードに溢れているが、全て《心が醜悪》系の情感を盛り上げるために機能しており、その様は壮観でさえある。この情感面から見た場合、無駄な部分はむしろ少なく、ほぼ全てのページで、イヤぁな人間ドラマを満喫できる。私などには堪らなかった。
 ミステリ的にはバカミスだが、『飛蝗の農場』のように最後に置いてけぼりを食らうリスクも低い。話の内容に沿ったネタではあるので、真相が明かされた途端雰囲気が変わるというわけでもない。よって完成度は低くないと思う。
 すっきり綺麗にまとまってないと小説じゃない、という読者には決してお薦めできないが、猥雑でも無問題、むしろ歓迎、という人にはお薦めできるだろう。