不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ヘルファイア・クラブ/ピーター・ストラウブ

ヘルファイア・クラブ上 (創元推理文庫)

ヘルファイア・クラブ上 (創元推理文庫)

ヘルファイア・クラブ下 (創元推理文庫)

ヘルファイア・クラブ下 (創元推理文庫)

 ノラの夫は、出版社《チャンセルハウス》の経営者である。この会社は、謎の作家ヒューゴー・ドライヴァーの傑作ファンタジー『夜の旅』で保っているようなものであった。そして夫の母親はどうも精神状態が思わしくなく、ここ数年大長編小説にかかり切りだと自分では主張している……。そんなある日、ノラの友人ナタリーが寝室に血痕を残して失踪する。彼女の部屋の本棚には、なぜか『夜の旅』が。訝しく思い色々調べ始めるノラだったが、《チャンセルハウス》とドライヴァーには隠された裏事情があるらしいことがわかってくる。そこに、なぜか町の殺人鬼が絡んで来て……。
 様々な要素がぶち込まれた意欲作であり、粗筋紹介が長くなってしまうタイプの作品である。ハッキリ言って贅肉がたくさん付いているのだが、ストラウブは委細構わず、豊満かつ濃厚な筆致で、波乱万丈、サスペンスフルに物語を描破している。主人公のノラが更年期を迎えた女性、しかも割と気性が激しい人物であるという設定もよく活かされており、混沌とした雰囲気の中、熱っぽく、そして狂おしく旋回する物語に読者は胸躍らせ、同時に、読んでいる真っ最中から満腹感を味わうことになるだろう。もうちょっと整理されていれば、よりお勧めしやすくはなったはずなので、それだけが残念。