不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

夜明けの剣/マイケル・ムアコック

 暗黒帝国のいる次元から国ごと脱出したカマルグ国。安息の日々ながら、ホークムーンやブラス伯の胸の内には、暗黒帝国との激戦に対する憧憬が育ってきていた。そんな中、次元移動を可能にする宝石の存在が明らかになったので、ホークムーンとダヴェルグは、暗黒帝国の先手を打つため、暗黒帝国のある次元に潜入する……。
 巻末で、ムアコックのインタビューが紹介されており、これが極めて興味深い。《ルーンの杖秘録》の明確な公式があると語られている。それは、使うつもりでいるもののリストと、4ページごとに事件を起こすことだそうだ。そして実際、このシリーズは4ページごとに何かを起こして読者の興味を惹き続けている。荒唐無稽で文章的にも目覚しく美麗なわけではないシリーズだが、読み出すと一気なのは、こういった明確な公式があってのことだったかと感心しきり。『夜明けの剣』も同様で、暗黒帝国との戦い自体がいつの間にかすっかり目的化しているのに、話の流れに身を任せているとうっかり見逃しそうになる辺り、ムアコックは実にうまいものだと思う。
 《エルリック・サーガ》よりもはるかに平易で読みやすいので、入門編としてはなかなかイケていると思う。また《ルーンの杖》という概念は、新《エルリック・サーガ》でも重要なモチーフとなっているので、エルリックのファンも必読だ。