ヨーロッパの覇権を握りつつある暗黒帝国と、彼らに反抗するブラス伯及びホークムーンの少々暗めの戦いと冒険が語られる。
エルリック・サーガ(既読のものに限る)が終始、良くも悪くも華麗な物語であったのに比べ、この『額の宝石』はより地に足のついた冒険ファンタ
ジーといえるだろう。多元宇宙を示す現実崩壊的なシーンは今のところ皆無で、少なくとも本作においては、これが
エターナル・チャンピオンの一画とは明示されない。登場人物も、
エルリック・サーガに頻出する、まるで
叙事詩のように詩的で思わせぶりな科白は吐かず、あくまで近代的な小説の範疇における通常の言動をとることが多い。地の文も同様で、端的に言えば読みやすい。
ムアコック入門には、こちらの方がより適切であるかも知れないし、そもそも普通に面白いので、広くお薦めしたい一冊となっている。
ムアコック再評価の気運高まる中、
創元社の《
二匹目の泥鰌》気味の戦略に乗せられてみるのも一興であろう。