不壊の槍は折られましたが、何か?

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ジョン・ディクスン・カーを読んだ男/ウィリアム・ブリテン

ジョン・ディクスン・カーを読んだ男 (論創海外ミステリ)

ジョン・ディクスン・カーを読んだ男 (論創海外ミステリ)

「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」で有名なウィリアム・ブリテンの短編集が出るなんて! と一部で騒がれていた本である。収録14編中11編は「○○を読んだ△△」というタイトルが付されている(ただし「読まなかった男」のみ例外)。
 この11編は巨匠ミステリ作家へのユーモラスなオマージュである。ミステリとしては本格が揃っており、それは「ダシール・ハメットを読んだ男」「ジョルジョ・シムノンを読んだ男」「ジョン・クリーシーを読んだ少女」辺りでも変わらない。ネタも粒が揃っていて印象は良い。ミステリ・マニアに対するくすぐり*1も利いており、ニヤニヤしながら読めるのも素晴らしい。バカミスとして有名な表題作はアンソロジーで読めるが、このシリーズが一冊にまとまったのは本当にありがたい。
 他の3編もなかなかの出来栄えで、パロディやオマージュに拠らずとも、ウィリアム・ブリテンは整ったミステリを書けることを証明している。
『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』と聞いただけで反応してしまう業深きオタクはもちろん、綺麗にまとまった短編ミステリを読みたい人にもおすすめだ。……あ、でも表題作だけはかなーりバカなんで、その点はお含みおきください。

*1:このくすぐりは、楽しむために知識が必要なものではない。今であれば「読書家一般に対して『今日の早川さん』がおこなったくすぐりと同種のもの」と言えば通りは良いだろうか。