不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

クリスマス・プレゼント/ジェフリー・ディーヴァー

クリスマス・プレゼント (文春文庫)

クリスマス・プレゼント (文春文庫)

 圧倒的に素晴らしい短編集。長編の評判が極めて高い作家が、短編でもまた凄腕を発揮するというケースは、稀というほどではないが、ありふれてもいない。幸いなことに、ディーヴァーは少数の方に入ってくれた。というか『クリスマス・イブ』を読む限り、ひょっとすると短編の方が……?
 全編非常にスタイリッシュで読みやすく、決めるべきところは決めてくれる。580ページに16編であり、一作当たりの枚数は少ないが、必要に応じて情感面でも万全の体制を敷く。各編、キャラが綺麗に立っています。そしてこれが一番重要なのだが、帯の「どんでん返し16連発」という看板が、まったく偽りではない! 心の底から驚愕できるかは別として*1、非常によく考えられていて切れ味も鋭いのであった。全編粒よりであり、一番つまらないのが、リンカーン・ライムものとして決して不出来ではない表題作である辺り、この短編集の驚異的水準を物語っている。最近は異色作家系の短編集がミステリ界を席巻していたわけだが、久々に登場した、より正統派の傑作ミステリ短編集といえよう。超お薦め。
 というわけで、ディーヴァー・ファンや短編ミステリ・ファンなら死んでも読めレベル。その他にも広くお薦め。読みやすいので、海外アレルギーがある方々にもいいんじゃないでしょうか。しつこいようだが傑作。傑作ですよ!
 ……ただし解説は先に読んじゃ駄目だと思います。ネタこそ割っていないが、予想がつきかねないことを、作品を特定して書いている。というか、方向性を明言してしまっている。これだけが残念。

*1:できないと言っているわけではない。