不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

首吊少女亭/北原尚彦

首吊少女亭 (ふしぎ文学館)

首吊少女亭 (ふしぎ文学館)

 ヴィクトリア朝を舞台とした12個の短編。ただし表題作のみ、直接の舞台は現代になる。
異形コレクション》で初出の短編をまとめたもので、幻想小説ないしホラーという按配の作品が多数を占め、たまにSFテイストのものが含まれる。いずれも起承転結が明快で、怪奇または雰囲気だけの小説*1を読まされるのではないかと心配する必要はない。。実在の事物あるいは著名なフィクション上の存在に関連付けた作品が多いのも特徴で、狂気をベースとしつつも時々笑いを混ぜるなど、ヴァリエーションにも富んでいる。また、《異形コレクション》収録作ということでページ数はギリギリまで絞られているが、その行間からヴィクトリアンな空気が立ち上る様は非常に素晴らしい。本書は幻想小説であると同時に、オチの明快な小噺でもあり、紛れもなき歴史小説でもあるのだ。エンターテインメントに徹しているのも、実に潔い。
 小粋な短編の連続、そしてオチから逆算されて書かれたと思しい構成は、ミステリとの親近性も抱かせる。ホームズのカメオ出演は単にマニアへのくすぐりと解すべきだろうが、これがなくともミステリ・ファンだって十二分に満足できる。
 というわけで、これは傑作だと思う。よく練られ、美しく仕立てられた珠品の数々。短編を愛する人々には、特に強くおすすめしたい。

*1:むろん、それはそれで素晴らしい。