不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

シャーロック・ホームズの栄冠/北原尚彦(編訳)

シャーロック・ホームズの栄冠 (論創海外ミステリ)

シャーロック・ホームズの栄冠 (論創海外ミステリ)

 各編共に、ホームズに対する愛に満ちていて(たとえ茶化していようとも、だ)、好ましい限りだ。しかし、愛だけで傑作がものせるほど、世の中甘くはない。
 この短編集には、楽屋落ちやメタ話も少なくないし、正面突破型の真面目な偽作は、質の点で原典に及ばないものがほとんどだ。中には、読者がシャーロッキアンであることを前提として各種くすぐりを入れ、それが作品の主たる魅力になっている小説すらある。一編のミステリあるいは小説としてはどうなのか。この点、「小惑星の力学」「シャーロック・ホームズなんか怖くない」辺りは、メジャーなホームズネタを使った上で話の構成を変更するなどして原典とは全く異なるテイストを意図し、かつ成功していて、真っ当な評価に値するだろう。
 というわけで、やや批判がましいことを書いてきたわけだが、最初から最後まで楽しませてもらったのは紛れもない事実だ。企画の性質上、あまり野暮なことは言わず、鷹揚に楽しむべき一冊ということなのだろう。ホームズ・ファンには強くおすすめである。