不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

この指とまれ/小川勝己

この指とまれ  -GONBEN-

この指とまれ -GONBEN-

 美貌の女子大生・椙浦夏子は、稼いだバイト代全てを貢いだ恋人に裏切られ、大学の同級生で体育会スキー部に所属する鹿沼歩(♀)と「お金持ちになって、見返してやる!」と誓い合った。二人は、父親が会社で不正を働いて逮捕された歩の後輩・吉田博貴、夏子がバイト先のキャバクラで知り合った長谷川夏樹らを仲間に加え、学生サークルのノリで数々の詐欺をはたらき、大金を稼いでいくが……。
 一見連作短編集だが終わってみればやっぱり長編、という感じの作品だ。最初のうちは戸梶圭太にもつながる「安い」事件揃いの軽快なコン・ゲーム小説である。しかし小川勝己独特の瘴気が感じられる場面が次第に増え、クライム・ノベルあるいはノワールとしか形容しようのない作品に転じていく。登場人物が抱える心の闇の描き込みは若干甘いものの、疾走する暗黒の青春模様は(彼らの一部が抱える重たい事情も含めて)なかなかに面白い。読みやすいのも好感が持てる。奸智に長けた計画の数々も作り込みが非常にうまくて感心する。しばらく本が出ていなかった小川勝己だが、そのファンの渇きを十二分に癒す作品といえよう。