不壊の槍は折られましたが、何か?

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ジャン=ジャックの自意識の場合/樺山三英

ジャン=ジャックの自意識の場合

ジャン=ジャックの自意識の場合

 子供たちが集められた島で一組の少年少女が様々なことを体験する……という話なのか否かは読んで判断していただきたい。第8回日本SF新人賞受賞作。作者は平山瑞穂『ラス・マンチャス通信』が好きで、本書を日本ファンタジーノベル大賞に応募したが落ちたとのことだ。
 視点人物を務める登場人物たちが詩的な表現で数々の美しいシークエンスを描写していく。しかし本作は幻想小説ではなく、終盤近くでSFらしいネタが開陳され、題名もなるほど『ジャン=ジャックの自意識の場合』としか付けようがない物語に転化するのだ。ただし、小説としては全てがあまりにもポエティックに過ぎよう。より画然とした説明的な文章を要所に配置することで、格段に作品は締まるはずである。そんな文章を入れたくないのであれば、思い切ってさらにファンタスティックな方向に、つまり《説明》など元から不要な方向に舵を切るべきであった。センスで勝負するタイプの作品として終始しつつ、ストーリーや設定への妙な色気を見せるため、据わりが悪いのである。とはいえ佳作であることに間違いはなく、注目すべき新人がまた一人デビューしたということになろう。一読の価値は十分ある。