不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

虐殺器官/伊藤計劃

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 21世紀中葉、世界では内戦による虐殺が相次いでいた。アメリカ情報軍に所属するクラヴィスは内戦首謀者の暗殺を数多く手がけていたが、事態の背後には常にジョン・ポールなるアメリカ人の影が見え隠れするのだった。
 ディテールにこだわった近未来軍事小説かと思わせておいて、中盤で確固たるSFに転化する。中核となるアイデアはよく考えるとかなりバカバカしいが、作品世界が実にしっかり組み立てられているので微塵もそういった印象を受けない。テーマ性が極めて高いのも特徴で、9.11後の世界に対する深刻なメッセージを内包している。主人公の過去の因縁(事故に遭った母親の延命治療中止を決断)と戦闘行為の内面的な絡め方も非常にうまい。硬質な文体もむしろ感興を高めている。『Self-Reference ENGINE』ともども、日本SFの大型新人がいきなりホームランを放っており、頼もしい限りといえよう。