不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ルドルフ・カイヨワの憂鬱/北國浩二

ルドルフ・カイヨワの憂鬱

ルドルフ・カイヨワの憂鬱

 物語の舞台は、近未来のアメリカであり、体外受精義務化法案が成立しようとしている。場末(スラムをイメージしていると思われる)の弁護士ルドルフ・カイヨワは、自宅で自然出産しようとした母親が(それを理由に)児童虐待の罪に問われた案件の弁護を依頼されるのだが……。
 とまあ、最初のうちはハードボイルドっぽく始まる。そして最後まで一応ハードボイルド調は抜け切らないが、物語はなかなかスケールの大きい展開を見せ始める。全体としては結構骨太の小説であり、文章等の点からも作者は既に熟達している。新人賞に期待される初々しさや荒ぶりは強くないが、その分読ませる。テーマ(詳しくは述べませんが)にも絡むルドルフ・カイヨワの心傷とその苦闘もなかなか魅力的。ハードSFというよりは社会派SFという感じで、それがSFの新人賞としては引っ掛かったところなのかもしれないが*1、良作であることは間違いない。しっかりしたエンタメが読みたい人へ。

 それはそうと、SFハードボイルドってことで、こんなことを思い出しました。「これがダメだったらもう一生SFは読まない」とか言ってハードボイルド要素の強そうなSFを、池上冬樹が絶賛したことを理由として手を出すハードボイルド好き、web上にいたなあ……。違うジャンルに臨む態度ではないと思いました。慣れ親しんだジャンルの文脈でしか読解するつもりないんなら、最初から外に出て来ないほうがいいと思います。

 以上。

*1:大賞ではなく、去年の佳作なんだよな……。