不壊の槍は折られましたが、何か?

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水に描かれた館/佐々木丸美

水に描かれた館 (創元推理文庫)

水に描かれた館 (創元推理文庫)

 財産目録作成のため再び《崖の館》集った涼子たちだが、招聘した鑑定家は予定より1人多く、4名も来てしまった。そして誰が予定外の鑑定家なのかわからぬまま迎えた夜、聖書を後生大事に抱え持つ電波系少女が館に保護される。そしてそれから館には不思議な出来事次々と起こり始め……。
 異様な熱気と執念・妄想に包まれた、圧巻の少女小説である。一人称の主人公である涼子の精神は、妄想と紙一重どころか完全にあっち側の世界に行っており、そこでさらに暴走する。もはや狂気に駆られているとしか思えず、また他の登場人物も落ち着いた挙措を示すことは皆無だ。彼らは常に真剣であり、鼻息も無茶苦茶荒い。そして観念的な独白・演説を繰り返すのである。そして物語は、幻想小説怪奇小説)と推理小説の間を行ったり来たり、どちらに落着するのか全く予断を許さない。
 というわけで、何らかのジャンル小説として読み込むと跳ね飛ばされるのは必定である。佐々木丸美の狂気に呑まれるような読み方がベストだろう。取り掛かる場合は、ある程度の覚悟をもって当たるべし。
 なお津原泰水の解説には、極上の感傷性が横溢しており、この作品には相応しいものとなっている。やはりこの人は凄い。