赤朽葉家の伝説/桜庭一樹
- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/12/28
- メディア: 単行本
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ラノベ風味*1の少女小説をものしてきた桜庭一樹としては、非常に野心的な試みといえよう。ただ、桜庭ファンはもちろんわかっていることだろうが、彼女の作品は深刻にして悲劇的な様相を呈す(あるいはそれを予感させる)ことが多く、登場人物の心象は非常にしばしば痛々しかった。つまり、軽く読み流せるものでは元々なかったわけで、『赤朽葉家の伝説』においてもこの基本線は変化していない。主要登場人物の精神年齢が「少女」から若干上昇した印象は受けるが、あくまで若干である点にも注意を要する。赤朽葉家三代の女性は三者三様、それぞれの生き様や価値観を見せてくれるとはいえ、全員どこかふわふわしていて、たとえば桐野夏生辺りがまざまざと見せ付ける、人格上の生々しい「嫌らしさ」は読み取れない(状況の「嫌らしさ」はあるし、主人公たちが理想的な人格として描かれているわけでもないが……)。また、性は語られるが、男性の存在感が希薄である辺り、佐々木丸美と丁度逆の手法であり、なかなか興味深い。
というわけで、やはり最大の変化は、主人公たちを通して戦後史を(象徴的にではあるが)俯瞰する、という大規模なテーマ設定にある。それは即ち、「きみとぼく」と揶揄されるような筆致を抑え、特に第一部および第二部においては、語り口も堅実な「普通」の小説らしくなっていて、桜庭ファンは興味深く読めるだろう。第三部において急激にミステリ色が濃くなる展開も、意外感があってなかなか良い。そして、登場人物の道行きを通して、戦後史が見事に立ち上がってくるのも、なかなかに素晴らしいものがある。取り上げられる産業が鉄鋼・造船といった重厚長大系であることもミソで、物語にどこか泥臭く、勇壮な背景を与えている。恐らく現時点での桜庭一樹の最高傑作といえよう。個人的な移入阻害事項があるので、申し訳ないが私のプッシュ意欲は殺がれているものの、絶賛するに吝かではない素晴らしい作品だ。