不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

物しか書けなかった物書き/ロバート・トゥーイ

物しか書けなかった物書き(KAWADE MYSTERY)

物しか書けなかった物書き(KAWADE MYSTERY)

 《奇妙な味》を心ゆくまで堪能することができる、素晴らしい短編集である。クライム・ストーリーを基本としながら、トゥーイは怪奇幻想の要素も大いに取り入れ、その上で更に捻りを加える(この捻りがまた多種多様なのだ!)ことで、特異な作風を成立させた。《奇妙な味》系の作家にしては、皮肉な姿勢が頻出しないのも特徴的だ。もちろん甘いわけではなく、イヤな終わり方をする作品が大半を占めるものの、底に人間への好意や信頼があることもまた疑いない。ゆえに不思議と、後味は良いのである。年末には各種ベストに絡むべき傑作といえよう。
 個人的なお気に入りは、夫が変死したとの通報を受けて刑事が邸宅に向かう不気味な幕切れ「おきまりの捜査」、何度も妻を亡くしその度遺産や生命保険を手にする怪しい男と彼を怪しむ刑事の対決を描く「階段はこわい」、本当に題名ままの「物しか書けなかった物書き」、ギャング志願者とそのボスの、意味ありげな仄めかしに満ちた会話を主眼とする「拳銃つかい」、怪しげな発言に警官が振り回される「支払い期日が過ぎて」「家の中の馬」、売れない作家の頭の中で生きる登場人物を描く「いやしい街を…」、骸骨がヌケヌケと活動する「墓場から出て」、エラリイ・クイーンの特別出演がある「犯罪の傑作」、そして本当に不穏なミステリ「オーハイで朝食を」辺り。ほぼ全てですね。
 というわけで、広くお薦めしたい。
 法月綸太郎による解説も丁寧で素晴らしいが、こちらについては本編読了後に読む方が良いだろう。的確な分析は、ときに予断を生むのである。