不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

眼を閉じて/ジャンリーコ・カロフィーリオ

眼を閉じて (文春文庫)

眼を閉じて (文春文庫)

 南イタリアの刑事弁護士のグエッリエーリは、「元恋人に付け狙われ、怪我を負わされた」と訴える女性マルティーナの損害賠償請求の弁護士となる。その元恋人の父親は検察の大物であり、他に誰もマルティーナの依頼を引き受ける弁護士はいなかったらしい。マルティーナ自身も、修道女クラウディアに支えられてやっと訴えを提起したのである。グエッリエーリは、クラウディアに不思議な魅力を感じつつ、そして困難な訴訟になることも予感しながら、この依頼を引き受けたのであったが……。
 ストーカー犯罪でしかも加害者は法曹有力者の子息、という事件の陰湿さが明確に打ち出され、結末も甘くはない。しかし、主人公の弁護士と、被害者を精神的に支える修道女が、事件を通してある種の克己を成し遂げるため、最終的には爽やかな印象すら残す。スタイリッシュで流れるような文章と展開によって、格調の高さと読みやすさを両立させていて大変素晴らしい。人物描写の対象を主人公と修道女に絞り込んでいることも、物語を綺麗にまとめる意味では奏功している。目新しいことは何一つしない*1作品なので、過剰な期待は禁物だが、十分に楽しめる佳品といえるだろう。

*1:ただし、本国で上梓された時、イタリアでは、「ストーカー」は犯罪としてまだ認知されていなかった模様だ。