不壊の槍は折られましたが、何か?

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ひつじ探偵団/レオニー・スヴァン

ひつじ探偵団

ひつじ探偵団

 この物語の主人公は、羊たちである。彼らは牧羊であり、自分たちの間で会話を交わす。しかし、これは断じて擬人化ではない。羊たちには、言葉こそ聞き取れる。しかし人間との意思疎通は基本的に不可能である。要するに普通の羊たちである。彼らは、羊独自の感受性(と作者が設定した感受性)をもって、羊飼いの死によってもたらされる騒動に当たり、事件を捜査するのだ。
 装丁や帯を見ると、早川書房はこの物語をキュートなものとして売り出している模様だが、実質的な内容は全く異なる。作品の雰囲気は非常にお堅いもので、『ひつじ探偵団』はユーモア小説ではなく、いやユーモア小説かも知れないがそれ以上に、辛辣な風刺小説として読解されるべき作品である。ひょっとすると文学ですらあるかも知れない。話はやたら抽象的・象徴的であり、最早晦渋の域に達している。羊たちが人間たちの抱く概念を理解できないのは仕方がないし当然ですらあるが、当の人間の登場人物たちが喋る内容すら抽象的で象徴的なのは問題が多い。羊が喋っているのか人間が喋っているのか瞬時に判断が付かないのは読者の読解力の問題としてさて置くとしても、人も羊も同じような禅問答を延々と繰り広げるのであれば、羊独自の価値観を設定した意味がない。これは作品の根幹にかかわる瑕疵だろう。あと、長過ぎ。100ページは削ることができよう。
 そんなこんなで、読み進めるのが苦痛であったことを告白しておきたい。読者を選ぶだろう。