不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

苦い祝宴/S・J・ローザン

苦い祝宴 (創元推理文庫)

苦い祝宴 (創元推理文庫)

 大規模な中華レストランで働く従業員4名(いずれも中国からやって来た移民)が、ある日突然失踪する。背後には最近始められたこの店の労働組合活動があるらしい。しかもこの店は、チャイナタウンの最有力者の一人が経営しているのだった。リディアの友人であるピーター・リーは組合の弁護士で、リディアは強引に失踪した4人の捜索の依頼を受ける。ピーターの恋人にして同じく友人であるメアリー刑事にも心配されながら、リディアはビルと共に調査を進めるのだが……。
 中国からの出国移民、という社会問題を市井の視線から丁寧に扱いつつ、リディア担当の巻の特徴である《リディア自身の物語》という側面もきっちり打ち出している。リディアの母が、常日頃は探偵業を嫌いつつも、リディアの仕事振りに一定の評価を与えている場面もあって、シリーズ読者としてはジンとしてしまった(母親自身は淡々とそれを表明するのも良い)。そして水準をいささかも変えず、錯綜するプロットと、瑞々しく描かれる登場人物たち……。今回もまたローザンと訳者はグッジョブであった。