不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

龍の館の秘密/谷原秋桜子

龍の館の秘密 (創元推理文庫)

龍の館の秘密 (創元推理文庫)

 父を捜索する旅費を稼ぐ必要がある倉西美波は、今回、「立っているだけで一日二万円」という条件のバイトに挑む。その実態は、東南・中近東のアジア留学生たちと共に炎天下、托鉢することだった。ヘトヘトになった美波は、バイト先の宴会で飲めない酒をうっかり飲み、気付くと皆一緒に京都にいた。そこから伝手を辿り、貴船の先にある名画家の屋敷「龍の館」に宿泊することになる……。
 激アルバイターの事件簿、その第2弾。今回は館モノで、ガジェット上はもちろん、内容的にも、《本格ミステリ》が前作より強く打ち出されている。手短に話を切り詰めようとするラノベの性格*1のおかげか、構成が締まっており、一息に読むことが可能。トリックもなかなか面白い。伏線もうまく張られている。問題があるとすれば、やはりキャラ造形か。少々ベタ過ぎると思われた。水戸黄門的な友人の存在感も、鼻に付きます。併録の短編は、凝縮されてはいるものの、ネタがネタだけに好悪を分かつ。しかし総じて見れば、長編・短編いずれも、広くおすすめできる佳品となっている。来月の新作に期待したい。700円台が800円台になる値段設定から考えると、心持ち分厚くなるのだろう。まさかとは思うが、ラノベ路線から脱却……?

*1:例外が山とあることは、書店に行けばすぐにわかるけれども。