不壊の槍は折られましたが、何か?

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中庭の出来事/恩田陸

中庭の出来事

中庭の出来事

 「中庭にて」「旅人たち」『中庭の出来事』という3つのパートが交互する構成の物語。いずれのパートも殺人が起きているらしく、かつ演劇関係の物語らしいのだが、全体像は霧の中、どうもハッキリしないまま始まる。各パート相互の関係性もまるで見えて来ず、読者は五里霧中のまま読み進めることになろう。しかし、好調時の恩田陸特有の、あの妖しい吸引力があって楽しめる。このストリーテリングは真に素晴らしく、細部の表現もうまいものだ。目の前の台詞や仄見える人間関係を、刹那的に楽しむこともできるだろう。
 そして心配な幕引きだが、意外にもそれなりにちゃんと落ちていて、嬉しい驚きだった。画然とした収束というわけではないが、恩田陸にしては頑張った方だろう。ミステリ云々としては議論の余地があるものの、一編の物語としてはむしろ似つかわしいオチではないか。
 というわけで、なかなかに素晴らしい作品であった。ファンにはおすすめしたい。