不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

僕たちは歩かない/古川日出男

僕たちは歩かない

僕たちは歩かない

 パラレル東京に行けることに気付いた若者たちが料理店を開くが、紅一点(?)が事故死してしまい、仲間たちは彼女を求めて死の世界に赴かんとする……と粗筋を紹介したところで、この幻想的な物語の万分の一も伝えたことになりはすまい。
 確実に不世出の作家である古川日出男が、非常に薄い本であることもあってか、そのセンスだけで押し切った作品である。これは別に批判ではない。スウィング感溢れる文体で、小気味良く進行する不思議な話のリーダビリティと魅力を否定することは、恐らくかなり難しいだろう。そう、妙に面白い。それは、物語が内包する要素それ自体よりも、古川日出男の語り口や醸成する雰囲気が、そのセールスポイントになっているからだ。挟まれるイラストの抽象的なニュアンスも乙なものである。
 というわけで、『僕たちは歩かない』は古川ファン向けにはおすすめの一冊だ。