魔術師の夜/キャロル・オコンネル
- 作者: キャロル・オコンネル,務台夏子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/12/27
- メディア: 文庫
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オコンネルの文章表現は結構迂遠であり、端的に述べられるところもわざと回りくどく書く。ただし格調が高いわけではない。そして時々、地の文で直接、マロリーが特別なキャラであることに言及してしまう。これは行間でやってほしいなあ……。また、全体的に暖かな視線、いやもうぶっちゃければ、人間に対する作者の微温的な思念が感じられ、これ自体は良しとしても、クールビューティー系(ツンデレでは断じてない)と大別されるマロリーの魅力に最適かと言われると正直疑問である。個人的には、冷徹・非情な文章の方がこのシリーズには似つかわしいはずだと思う。残念。とはいえ、これはこれで個性的な色合いを見せていることは否定できない。独特の魅力が出ていることも確かなわけで、読み応えは抜群だ。否定するのは野蛮だろう。
さて、物語の方はかなり錯綜というか混迷を極める。紹介を見て、随分未整理だなと思った貴方。だって書ける範囲の粗筋、本当にまとまってないんだもの。最初のうちは、荒らしに荒らされた大広間が目に飛び込んできた感じで、大道具から小道具まで、とにかくとっ散らかっている。これを徐々にまとめてゆくのだが、上巻では基本的に全然整頓が進まず、要素がドカドカ出て来ては、ガチャガチャ並び替えられてああでもないこうでもないと論議される。基本ペースがゆったりしているので、せっかちな読者は付いて行けないかも知れない。また、登場人物各自の《視線/焦点》もあっちへフラフラ、こっちへフラフラ。ここら辺に魅力を感じるかも、読者にとっては分岐点か。慣れの問題かも知れないけれど。
しかし、徐々に形が見えてくる事件の大枠、そして真相が醸し出す情感は非情に味わい深い。また、マロリー対マラカイの知的駆け引きと心の交流は、本当に素晴らしい。マロリーはあんなキャラなので、これまで他人を高みから見下ろしていた。しかし今回、彼女は遂に対等あるいはそれ以上の立場に立つ人間に出会ったのだ……が、そんなことは抜きにしても、この刑事と魔術師の関係性は印象的。心に残る名勝負とはまさにこのこと。
というわけで、オコンネル・ファンならば必読。それ以外の人も、単体で100%楽しめる作品になっているので、是非是非。