不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

蒲公英草紙/恩田陸

蒲公英草紙 常野物語 (常野物語)

蒲公英草紙 常野物語 (常野物語)

 この作家の最高傑作『光の帝国』の系譜に連なる作品であり、構成力のない彼女の常として、全てを台無しにするのではと危惧していた。幸いにして予想は外れ、最初から何をやりたいかはっきりしており、そしてその《やりたい》ことに構成力は必要ない。そうなると情景描写そのものの腕は確かなので、それに魅せられていれば最後まで心地よく楽しく読めるわけで、いやあなかなかいい読書でした。
 恩田陸が今回企図したのは、具体的には、今回は20世紀初頭の田舎の旧家(でも洋館)を舞台に、明治期の古き佳き上流階級の生活を描写することだ。そこに常野物語に相応しい超能力要素や、健気な要素を練り合わせればもう最強。筆遣いが非常に丹念なこともあり、彼女にしては珍しく腰を据えて書いたのではないかと思われる。お薦め。