夏の名残の薔薇／恩田陸

夏の名残りの薔薇

　山頂の豪奢なホテルにおける、奇怪な事件。

　手法自体は極めて前衛的だが、この作者はそんなものより語り口のうまさを優先させてしまう。物語を手繰る手際は確かだし読みやすい。しかしながら、このネタで小説構造を全面に出さない（出せない？）のは問題だろう。歌野晶午や山口雅也であれば、もっと硬質な感触の作品になっていたはずで、良くも悪くもガツンと来たはずだ。しかし、恩田陸はここでネタを、専ら悪い意味で懐柔してしまう。
　残念だが、これが作家的特質なので仕方ないのか。情感重視のホラーやサスペンスであれば、この人凄くうまいのだが、本格は基本的に向いていないのかもしれない。このジャンル、もう少し思弁的ないし計算高いものだと思う。一定の配慮で計算した上に、情感盛ってくれるのなら私もこんなこと書かなくて済むのだが。あまりにも《オマージュでしかなさ過ぎ》ではないかと。