不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

シャルビューク夫人の肖像/ジェフリー・フォード

シャルビューク夫人の肖像

シャルビューク夫人の肖像

 11月12日の西荻ブックマークは、霞流一×杉江松恋(×小山正)のバカミストークショーだった。実は私、こそこそ行って来たのである。このトークショーでは、05年11月〜06年10月に出たバカミスの新刊が何冊か紹介されていた。しかし、私は情けなくも一冊も読んでいなかったのだ。これではいかんと一念発起し、今後ちょこちょこ読んでいこうと思っている。
 さてその第一弾は、既に世評高い『シャルビューク夫人の肖像』である。ある画家に、肖像画を描いて欲しいとの依頼が来る。しかし依頼人であるシャルビューク夫人は、屏風の向こうから語りかけるのみ。そう、夫人の顔も身体も見もせずに、彼女の身の上話を聞くだけで、肖像画を描けというのだ……。
 特に超常現象が起きるわけではないが、非常に幻想的な雰囲気に包まれる長編である。シャルビューク夫人の語る身の上が、非常に奇異なのだ。そしてこれに主人公の感覚が蝕まれ(狂うわけではない)、画家の恋人や夫人の執事なども巻き込みつつ、奇妙な依頼の奇妙な顛末が、濃厚な味付けで描かれてゆくことになる。実に素晴らしい小説で、虚々実々だが物語を読む楽しみを満喫できるタイプの作品といえるだろう。割とお腹いっぱいになれます。読み応えもある、奇妙だが重厚な傑作である。バカミス・ファンのみならず、もっと真面目な読者も多くが楽しめるはずの作品のはずだ。広くお薦めしたい。