不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

スノーバウンド@札幌連続殺人/平石貴樹

スノーバウンド@札幌連続殺人

スノーバウンド@札幌連続殺人

 久美子は、町で声を掛けて来た浩平といい感じになって……と思ったら浩平は久美子を誘拐し、身代金を要求する。ところが浩平は翌日、死体となって発見される。解放された久美子、彼女の仲間、そして車椅子の美貌の弁護士・山脇千鶴は調査を始めるが、やがて浩平に暴力を振るっていた教師が殺されて……。
 読んでいて、非常に寒かった。本格ミステリとしての完成度は高く、推理はさすがに堅牢だが、小説としてド下手なので、読んでいて苦痛。特に若者の描写が最低レベルで、二十代の女性弁護士間の会話すら厳しい。ハイティーンの登場人物たちに至っては、何をかいわんや。この小説は、登場人物の多数が、一人称の手記を次々書き継いでゆく形式をとるのだが、作家はここで、できもしないのに若者の言葉遣いを取り入れようとする。ほとんど全てのページにおいて、違和感ばりばりだ。会話文はおろか地の文の語尾にまで「ねー。」とかが頻繁に入る、58歳のおっさんが書いた小説を、ドン引きなしに読み通すことは私には無理な相談であった。物語の舞台は1990年の札幌だが、現在(2006年)と1990年の16年のタイムラグをもってしてもなお、この違和感を説明することは難しい。正直、読むに忍びない。
 本格ミステリ(しかも水準以上は確実な!)を、登場人物の言動が不自然だ云々で責めるのは後ろめたいのだが、個人的に容認できないレベルに到達したので敢えてこう書いている。作家には、自分ができもしないことはやらない勇気も必要ではないか、とすら思ってしまった。書きようによってはどうとでもなったはずであり、余計に悔やまれる。