不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ウースター家の掟/P・G・ウッドハウス

ウースター家の掟 (ウッドハウス・コレクション)

ウースター家の掟 (ウッドハウス・コレクション)

 バカミストークショー推薦本第6弾。と言っても殺人等は全く起きず、銀のウシ型クリーマーと料理人に関するコメディが描かれるだけ。しかし、伏線の周到な回収と、構成の緻密さという、高度な技術に裏打ちされた*1バカ・イベントの乱れ撃ちに、読者は感涙にむせぶことになろう。登場人物は、年齢も性別も問わず、全員が全員、素敵なまでに素晴らしくバカばかりある。右を向いてもバカ、左を向いてもバカ、前もバカ、後ろもバカで、上にも下にもやっぱりバカ、私にはもうできない!という感じのバカ・オンパレード、そして大狂騒曲。
 今回については、バーティの扱いもまた特筆すべきだろう。この主人公は、いつもいつもそのバカさゆえ懲らしめられてきたが、そのバカな言動も、一朝友に事あらば馳せ参じる高潔な精神ゆえだった。そんな彼も遂に、ある程度報われる。このバカもまた愛されていたことが、はっきりと示されるのである。その事実に、シリーズ読者としては感動せざるを得ない。そしてジーヴスが意外な付き合いの良さを見せ、準レギュラーたちは信じられない愚行の数々を繰り広げ……。嗚呼、彼らは、彼らは何と愛すべきバカどもなのだろう!
 「バカ」という言葉が誉め言葉に使われることに抵抗のある方も多くいらっしゃるだろう。しかしそれでもなお私は『ウースター家の掟』にこのような言葉をかけざるを得ない。バカとは、極めればこれほどまでに素晴らしく、これほどまでに感動的になり得るのだ。まさに必読、バカの金字塔、バカのバカによるバカのための渾身のバカ小説である。バカ万歳!

*1:これがゆえに、ウッドハウスは、ミステリとして扱うこともできなくはないのである。ゆめ見くびるなかれ。