不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

悪魔はすぐそこに/D・M・ディヴァイン

悪魔はすぐそこに (創元推理文庫)

悪魔はすぐそこに (創元推理文庫)

 世界的な数学者でハードゲート大学教授だったデズモンドは、学生を妊娠させたと疑われて辞職に追い込まれ、狂死に至った。八年後、彼の息子ピーターハードゲート大学で数学講師として働くようになり、経済学講師ルシールという恋人も得たが、偉大な父親と比べられて鬱々とした日々を送っていた。そんな中、デズモンドの友人でピーターとも親しいハクストン教授に、横領疑惑が持ち上がる。窮地に陥ったハクストンはデズモンドに助けを求める……。
 抜群のリーダビリティを誇る一冊。過去のスキャンダルと現在の殺人事件が交錯し、もつれた人間関係が次第に明らかになってくる様は本当に素晴らしい。登場人物の内面にかなり踏み込むのもポイントで、優柔不断なピーター、その恋人で結構即物的なルシール、ピーターへの淡い想いを少々残しつつも法学部長ラウドンに惹かれていくカレン(ルシールのルームメイト)など、主要キャストはもちろん、端役に至るまで性格が非常に綿密に描かれている。だからこそ「もつれた人間関係」がリアルに読者の前に立ち現れるし、感情移入させることでリーダビリティも高くなるのだ。こういった手法からは、本格ミステリといってもガチガチなそれではなく、サスペンス・タッチも交えたより自由な形式の本格に近いとの感触を持った。……しかしこれが孔明の罠だったとは! とんでもない大ネタはないが、細かいところまでよくできていて感心しました。先述のとおりリーダビリティも高いので、本格ファンのみならず、広くおすすめしたい逸品です。