不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

さよならを告げた夜/マイクル・コリータ

さよならを告げた夜 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

さよならを告げた夜 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

 探偵事務所の経営者ウェイン・ウェストンは、死体となって発見され、妻と娘は行方不明。警察はウェインが妻子を殺した後に自殺したと判断したが、彼の父ジョンは信じず、元警官の探偵リンカーン・ペリーとジョーに調査を依頼する。そして、調査を進めるにつれ、ロシア系マフィアの影がちら付き始める……。
 非常にスマートな作品である。諧謔の苦味、人生の悲哀、気の利いた科白、美しい情景描写など、なかなかスタイリッシュで、すいすい読める。これだけで、水準以上の作品であることは確実。しかし、展開もプロットも一本道に過ぎるし、キャラクター造形も通り一編。人間描写については、《私》以外のキャラに対しては、その意欲がそもそも感じられない。その《私》ですら、自意識を突き詰めてゆくという変な勢い(ex:西尾維新)すらなく、はっきり申しあげて、実に薄っぺらい。作者は弱冠21歳だったらしいので仕方ないとも思うが、正直、カッコ付けたいだけではないだろうか。少なからず困惑した。上手いことは確実であるだけに、惜しい。