美しき罠/ビル・S・バリンジャー
- 作者: ビル・S.バリンジャー,尾之上浩司
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/09/15
- メディア: 単行本
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バリンジャーなのに意外や意外、何も仕掛けてこない作品。代わりに、とても悲愴な人間ドラマがある。良き妻を持ち仕事もしっかりこなす、幸福な生活を送っていたはずの男が、ファム・ファタルに出会い、ずるずると堕ちてゆく過程を、作者は鮮やかに描く。心が蝕まれてゆく様子も非常に克明であり、もし現代の作家が書いたのであれば、サスペンスではなくノワールと称されていただろう。異常な感興を伝える作品ではないものの、非常によくまとまった小説であり、なるほどバリンジャーの仕掛けの数々は、この確かな筆力に拠っていたかと納得しきりであった。読みやすいので、旅のお供とかにいかがでしょうか。