不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ラギッド・ガール 廃園の天使Ⅱ/飛浩隆

 「今回は長編じゃなくて、短編集(中編集)かぁ。どうして長編でガチ勝負してくれないのかなあ……」などとなめてかかると大変な目に遭う傑作短編集。SFネタの打ち込みが強烈極まりなく(しかも難解には走らないという神業!)、この点では『グラン・ヴァカンス』を完全に凌駕している。区界に人間が訪れなくなった《大途絶》とは何だったのか、そもそも区界とは何なのか、基本設定がこれを読めばばっちりわかってしまう。しかも、叙情面・情感面・ドラマ面においても、『ラギッド・ガール』の各編は『グラン・ヴァカンス』と同水準の出来栄えを見せ、登場人物の個人的物語をも抉り出して余すところがない。キャラクターのバリエーションが増えている点で、『ラギッド・ガール』の方が上かも知れない。とにかく素晴らしい。第1作・第2作が連続して年度ベスト級の作品となったことで、《廃園の天使》シリーズは歴史に名を残すことをほぼ確実とした。これでまだSF設定の1/3しか出していないというのだから、いやはや空恐ろしい。
 というわけで、あまり数をこなしていないため本当に年内最高のSFかどうかの明言は避けるが、『独白するユニバーサル横メルカトル』『ブラバン』に並び、私の読んだ本年度オールジャンル国内新刊ベストとしたい。