不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

グリュフォンの卵/マイクル・スワンウィック

グリュフォンの卵 (ハヤカワ文庫SF)

グリュフォンの卵 (ハヤカワ文庫SF)

 ヒューゴー賞ネビュラ賞等を受賞した作品をずらりと並べた短編集。読む前はテッド・チャングレッグ・イーガンのようなSFを予想していたのだが、実態は少々異なり、あそこまで稠密な作品群ではない。核となる部分こそガチガチだが、人間ドラマのようなものがSFとして核となるものと併置されている。チャンやイーガンは人間ドラマ的要素も、SFとしての核と一体化していたが、スワンウィックは分割も可能と感じられた。雰囲気はパンクかゴシックっぽいが、ギブスンやスティーヴンスンに比べると読みやすい。これはあそこまで表現が華麗ではないという点に因る。あと、同様のテーマを扱いつつも、「グリュフォンの卵」の方が「しあわせの理由」辺りと比べると、やや社会派寄りであるなど、時々真面目な表情を見せるのも特徴か。
 なお、短編集全体を見れば、テクノゴシックになったりサイバーパンクになったり、未知との遭遇になったりと、ヴァリエーションに富んでおり楽しめる。ただし個人的には、全体的に、幻想がいまいち幻想として昇華されきれていないというか、バッチリ合う作風ではないと思った。 「世界の縁にて」「スロー・ライフ」「ティラノサウルススケルツォ」辺りは大好きですが。次作が出たら読んでみたい作家であることは間違いない。