不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

血染めのエッグ・コージイ事件/ジェームズ・アンダースン

血染めのエッグ・コージイ事件 (扶桑社ミステリー)

血染めのエッグ・コージイ事件 (扶桑社ミステリー)

 1930年代、バーフォード伯爵家の荘園屋敷に、伯爵の弟の閣外相、テキサスの大富豪、大公国の特使、英海軍少佐、伯爵の娘の友人で前日に勤務先の服飾店で高慢な客を痛罵してクビになった女性などが集まり、豪華なパーティーが開かれた。この裏では、重要な外交交渉や、怪盗《生霊》の盗難計画が渦巻いているのだった……。
 コージー・ミステリとしての暖色系ユーモアを基調としつつ、ナチス・ドイツがヨーロッパを席巻する世界情勢、国際的怪盗の暗躍など、スケールの大きな背景を擁した本格ミステリ。各登場人物が綺麗に描き分けられ、いずれも活き活きしているのは素晴らしい。また、各種要素をフル活用して、実はバカミスの世界へ我々を拉致する作品でもある。100ページを超える解明シーンは必見だ。何も考えずに楽しく読むべき傑作であると言えるだろう。
 小山正による解説もまた、作者や作品の背景がわかり非常に良い。ただし、トレヴェニアン『夢果つる街』やスコット・トゥロー推定無罪』を不当に貶めているように思われ、ちょっと残念である。