不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

レフト・アローン/藤崎慎吾

レフト・アローン (ハヤカワ文庫JA)

レフト・アローン (ハヤカワ文庫JA)

 それなりに水準を保ってはいるものの、いまいちインパクトに欠ける作品で揃えた短編集。藤崎慎吾はガジェットを次々誘爆させるタイプの作家であり、従って短編よりは長編向きであるのかも知れない。短編の場合、詰め込むことのできるネタがどうしても限られてしまい、この作者にとって不利であるように感じた。
 集中のベストは「猫の天使」。猫の感覚をモニターするというシンプルなネタを基盤に、出鱈目と紙一重のネタに発展させつつ、微笑ましい独特なオチをつける。大傑作だがなぜか世評がそれほど芳しくない『ハイドゥナン』同様、石に眠る記憶・感覚を巡る「星窪」が次点。壮大なヴィジョン、私などはそれだけで魅了されてしまうのだった。
 正直、その他の三編はさほど楽しめず。「星に願いを ピノキオ二○七六」は、もう少し長ければ情感的にやられていた可能性が高く、惜しい。「コスモノーティス」も、つまらなくはないのだが、いっそのこと地球外生命体の物語にし、難解さをまぶした方が良かったのではないかと思った。
 で、表題作「レフト・アローン」は、正直どこを楽しめばよいか理解できなかった。たいへん申し訳ない。