不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ハマースミスのうじ虫/ウィリアム・モール

ハマースミスのうじ虫 (創元推理文庫)

ハマースミスのうじ虫 (創元推理文庫)

 ワイン商キャソン・デューカーは犯罪研究家として鳴らしている。その彼がある日バーで、堅物銀行家のヘンリー・ロキャーが自棄酒をかっくらっているのに出くわす。事情を聞いていると、どうやら架空の事実を言いふらすぞと脅され、金を騙し取られたらしい。その卑怯な脅迫者が、ロキャー邸でローマ時代の胸像に興味を示していたことを鍵に、キャソンは犯罪者の性格や行動パターンを推察し、彼を追い詰めようとする……。
 悠然としたペースとテンションで進む、古典的名作(地味め)。推理法や登場人物の性格設定が、イギリスの階級社会に裏打ちされているため、社会正義を読書の愉悦よりも優先するタイプの人間には微妙な作品だろう。ウィリアム・モールが上流階級出身でしかも間諜だったことも、大いに興味深い。しかし、作者はこれらを恐らく全てわかったうえで、皮肉と自虐を込めて書いているのだろう。ラストも粋だ。
 上記以外で言うべきことは、川出正樹による解説で言い尽くされている。というわけでこれ以上はゴチャゴチャ言いません。お好きな方は是非是非。