不壊の槍は折られましたが、何か?

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犯罪は二人で/天藤真

犯罪は二人で―天藤真推理小説全集〈17〉 (創元推理文庫)

犯罪は二人で―天藤真推理小説全集〈17〉 (創元推理文庫)

 天藤真推理小説全集の最終巻。
 某短編では嫁が処女ではなかったと言って泣く奴が出て来る。別にこの短編集に限った話ではないが、この作家、妙に処女にこだわる一方、濡れ場とかは意外と味付けが濃かったりする。エロ大好きなのに超潔癖症というように、感受性が引き裂かれているわけだ。ここら辺の貞操観念のありようについては、最後まで慣れることができなかった。いくら1915年生まれといっても、やり過ぎ感が漂う。天藤真には、女性絡みで何らかのトラウマまたは遺恨があったのではないかと、邪推されてならない。なお、純潔の要求は基本的に女性側に対してのみなされ、男性側のそれに言及されることはほとんどない。その数少ない例が、「七人美登利」である。近所のカッコイイお兄さん(刑事)が童貞であることを聞き出し、20歳を中心とした乙女たちが喜びのあまり涙ぐんだりする。しかしこれも結局、女性側に超潔癖な貞操観念を要求しているに過ぎない。天藤真は大好きな作家ではあるが、この点については正直たいへん気色悪いものを感じていることを告白しておきたい。
 だがしかし、これを除けば、天藤真の作品は常に手が込み、かつしっかりと人間とそのドラマが描出される。この点は『犯罪は二人で』においても変化はない。本短編集の中では、やはり表題作に始まる、空き巣常習犯が新妻の手を借りて復活を企図するが……という感じの連作三編が素晴らしい。作者の死により、シリーズが終わってしまったのが残念であった。多分これ、連作短編集としてまとめるつもりだったのではないか。あまりにも惜しい。
 そして最後の一編(死後発見された)「飼われた殺意」で、作者の持ち味は全て曝け出される。エロくて、潔癖で、凝っていて、そして寂莫たる人間模様を描き尽くして余すところがない。
 天藤真は、本当に最後の最後まで作品水準がぶれることはなかった。内容のたっぷり詰まった、懐深い筆致と眼差しによる、時に優しく、しかし大体においては辛辣な物語の数々。もう読めないことがこれほど残念な作家もそうはいまい。一人でも多くの読者が、虚心坦懐に接してくれることを祈りたい。