不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

厭魅の如き憑くもの/三津田信三

厭魅の如き憑くもの (ミステリー・リーグ)

厭魅の如き憑くもの (ミステリー・リーグ)

 憑き物筋に関する因習に閉ざされた村で起きる、巫女と《黒い家》《白い家》を巡る連続怪死事件。それを、内部関係者数名、村外から取材にやって来た怪奇幻想作家らによる、多重視点で描く作品。具体的には、各人の手記という形をとる。
 正史的な世界を、民俗学的アプローチを更に深化させた形で提示する様がなかなか見事。《憑き物》に関する言及の頻度と深度は、物語を全面的に覆い尽くさんばかりで、やり過ぎ感さえ漂っている。しかもそれが、《憑き物筋》という物語の主要主題そのものになっているので、ペダントリーとも言い切れず、かつ文章そのものに情念も篭もり、なかなか独特である。ミステリ的なネタは確かに前例もあるが、この手の物語でこの手のネタをやったことは高く評価したい。
 というわけで、今年の国産本格中、上位に来ると予想する一作。正史っぽいのと民俗学ミステリが好きな方は是非。