トーキョー・プリズン/柳広司
- 作者: 柳広司
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/03
- メディア: 単行本
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不可能犯罪と戦犯問題を扱った作品。焼け野原になった東京を舞台として、太平洋戦争を主題として扱った作品だけあって、基本的に沈鬱なムードで進行する。ただし、それほど深い洞察が示されるわけではない。作家は右・左・戦勝国・戦敗国と旗幟を鮮明とせず、各登場人物の人間としての視点から、戦争の悲惨さ(それは人死にだけではなく、戦争というものが人間のありようにどう影響するかも含めての悲惨さである)を個人レベルで淡々と紡ぐ。政治思想的な問い掛けは無論なされるが、社会全体に関する結論を出したり、現代に直接着弾したりしないよう、気を使った形跡があって興味深い。両翼にもピンからキリまでいるが、キリどもに絡まれることを避けたのだろうか。
ただし、作品内で示される《太平洋戦争とその戦後処理》に関する話題が、ことごとく類型的・典型的・ありがちで、よく言えば最大公約数ということになろうが、はっきり言うと、このテーマについてどの程度自分で考えたのか疑いたくなるのは問題。登場人物造形も、散々勿体を付けつついまいちパッとしない。端的に言えば、戦犯処理が纏う重い雰囲気で全てを誤魔化し、戦犯処理そのものの内奥に迫らない作風であり、感心しなかった。自分の考えを自分の言葉で述べることからテーマ設置型の小説は始まるはずだが、この作家には、それがないのではないだろうか。丁寧に書かれたことは間違いなく、読みやすくもあるのだが、小説として上出来と言うには何かが足りない。
ミステリ的な作り込みは、しっかりしていて十分に満足できる。また全体的にも、先述のように読みやすいし、《太平洋戦争とその戦後処理》にこれを読んで読者個人が思いを致すには十分な描き込みもなされている。そもそもこのテーマ設定は、ミステリ的な趣向と絡めてこそ真価を発揮するのではないか。というわけで、本格ファンにはお薦め。最後に言っておくと、私はこの作品、決して嫌いではないのです。