不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

夜勤刑事/マイクル・Z・リューイン

夜勤刑事 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

夜勤刑事 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 インディアナポリスで、若い女性が絞殺され、指紋を潰されるという事件が連続して2件生じた。捜査に当たるリーロイ・パウダー警部補(48歳の夜勤刑事で、夫婦生活がほぼ破綻している)は、署にもたらされる細々とした事件を他にもたくさん扱いつつ、上記2件の殺人には関連性があると考え、粘り強く捜査を続けるのだが……。
 パウダー・シリーズ第1作。毛沢東主義者の高校生が登場して小賢しいことを散々言い立てたり、アルバート・サムスンを殴ったり、サムスンの恋人が遂に登場したり(そして彼女をパウダーが口説きます!)と、なかなか楽しいイベントが多発する、モジュラー型警察小説。署全体は描かれないが、一人の刑事が様々な事件を抱えているというよく考えると当たり前のことを、想起させられるミステリ。そしてサムスン・シリーズ同様、主人公であるリーロイ・パウダーの言動がとても面白く、冴えないが頑固なワーカホリックの中年警部補を(その私生活含め)描破してやまない。やはり登場人物がほぼ全員、魅力的で、読んでいて楽しいのだ。読みやすいのも従来と変わらず、広くお薦めできる佳作となっている。
 なお、第三者の視点から客観的に眺めるアルバート・サムスンは意外とカッコよかった。自分に対する視線がシニカルな一人称は、自己を過剰にコミカルに扱ってしまうのかもしれない。