不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

沈黙のセールスマン/マイクル・Z・リューイン

沈黙のセールスマン (ハヤカワ・ミステリ文庫)

沈黙のセールスマン (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 またもや暇だったサムスンのもとに、憔悴した感じの女性が訪ねて来る。どうやら彼女唯一の肉親である弟ジョン・ピッギーが、勤務先の薬品会社の事故で半年間入院しているらしい。ところが、薬品会社が何だかんだと理由を付けて、入院後半年間も面会させてくれない。ジョンの妻リンは金を積まれて満足しており、自分が弟に会うために何もしてくれない。だから彼女はサムスンに、弟と面会する算段を付けて欲しいと依頼しに来たのだ。依頼を受けるサムスンだったが、病院や会社の様子が確かにおかしい。……と思っていたところに、サムスンは、10年以上会っておらず今や美しく成長した実の娘サムの訪問を受ける。サムは父親を手伝いたいと言い始め……。
 サムスン父娘が共同で、結構大規模な陰謀が裏にあるっぽい事件に当たる作品。一人称による語り口が好調なのは当然として、リンとサム、二人のヒロインが素晴らしい華を添えている。二人とも実にキャラ立ちしており、彼女たちのために用意されたイベントも印象的である。私自身はサムスン以上にインパクトが感じられた。プロットの作り込みも相変わらず丁寧で嘆息するばかり。物語のスケールは、従来に比べて大きく、ここをどう感じるかが評価の分かれ目かも知れないと思うが、まあ普通は大丈夫のはずだ。
 毎回毎回同じことを言って申し訳ないが、本当にそうなのだから仕方がない。広くお薦め。