眼を開く/マイクル・Z・リューイン
眼を開く 私立探偵アルバート・サムスン (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1792)
- 作者: マイクル・Z.リューイン,石田善彦
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/11/15
- メディア: 新書
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13年ぶりのサムスン・シリーズ最新刊。免許を取り上げられてから、サムスンは尾羽うち枯らし、精神的にも実につらい日々だった模様だ。従来のサムスンであれば、事件関係者を見て思ったことを述懐していた。しかし今回は自らの内面に踏み込む場面が格段に増え、事件そのものは(いかに親友とはいえ)他人の人生の物語だが、小説の中身は事実上、サムスン自身の物語となっている。家族や恋人、友人・知人、地域コミュニティとの関わり合いを通じ、サムスンは長いブランクの中から甦って来る。しかし時は過ぎ去ってしまい、もはや元通りになるものは何もない。絶望は絶望のまま、しかし人は新たな希望を見付けて生を紡ぐ。リューインはそのことを、全編に丹念に織り込んでいる。
相変らずユーモアに包まれつつも、明らかに翳りの濃くなったシリーズ最新作を、日本で出た単行本全てに(概ね刊行順で)付き合った私としては、万感の想いに駆られつつ読んだ。シリーズ第2作『死の演出者』で、バスケットボールで打ち負かされた少年に(作品内時間で)20年振りのリベンジを果たすシーンなど、懐かしさと時の残酷さに胸がいっぱいになる。サムスン・シリーズの(今のところ)最後に控える作品として、是非既成ファンには読んでもらいたい一冊である。