不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

猫城記/老舎

 サンリオの白い猫と言えば、やっぱこれですよ!
 ロケットで火星にやって来た中国人の《私》だったが、ロケットは爆発し、同僚は死んでしまう。呆然と佇む彼の前にいきなり現れた火星原住民(猫の顔をしている)は、彼を強引に連れ去ってしまう。どうやらこの猫人間たち、奇妙な風習を持つ国家を築いているらしいのだが……。
 芥川龍之介「河童」と近似性を持つ、中国の小説。河童の代わりに猫人間が登場し、皮肉に満ちたとても奇天烈な文明文化が紹介される。SFなのかと言われると、舞台が火星であり主人公がここにロケット(細かな設定は何もなし)でやって来たことを除けば、科学的要素はほとんどない。センス・オブ・ワンダーもなく、代わりに痛烈な風刺精神が横溢しており、猫人間たちの国は明らかに、現実の人間とその社会を(非常に極端ではあるが)デフォルメしたものとして扱われている。風刺にとどまって、それ以上踏み込んだり発展したりしないのはやや残念だが、とはいえ読みやすいこともあり、なかなか楽しめた。ポカポカ殴り合う猫人間たちの姿は、ユーモラスではなく、実に不気味である。