不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

時は準宝石の螺旋のように/サミュエル・R・ディレイニー

 10編が収められた短編集。表現の一々が実に華麗で煌びやかで、しかも密度が高い。あまりまとめて読むと眩暈さえ起こす。そしてその影には、隠喩や暗示が多分に含まれているに違いないのだ。アイデアとプロットの結合も、手が込んでいる作品が大半を占める。まさに傑作短編集の名に値しよう。
 特に、半径数万光年の宙域外へ出ると普通の人間は発狂してしまうが、《ゴールデン》と呼ばれる特異体質の人々は大丈夫、という遠未来で、ある男の出会いや別れを描く「スター・ピット」、テレパシー能力を持つ黒人少女と見習い宇宙港整備員の交流を描く「コロナ」、労働災害に巻き込まれた水棲人間(いつもは陸上で暮らしているけど)が、歳若き水棲人間と交流する「流れガラス」、そして本当に素晴らしい表題作辺りがお気に入り。
 ディレイニー・ファンには絶対外せない作品だ。浅倉久志伊藤典夫をはじめとして、翻訳者も難敵を相手に、非常に健闘している。強くお薦めしたい。