道具屋殺人事件/愛川晶
道具屋殺人事件──神田紅梅亭寄席物帳 [ミステリー・リーグ]
- 作者: 愛川晶,解説・鈴々舎わか馬
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2007/08/23
- メディア: 単行本
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……とここまでなら、名探偵の推理をワトソン役がリリースするというだけである。これはたとえば三毛猫ホームズ辺りも同様で、作例は多くもなかろうが稀というわけでもないはずだ。しかし本書はさらにまだ先がある。
師匠の推理を理解した福の助はまず、それを一般客もたくさん入っている高座で、落語(それも古典落語!)をしながら、関係者にはわかるような形でそれとなく提示するのである。この段階では、関係者と亮子こそピンと来るのだが、読者に対してはまだ明快な説明がない、高座の後にやっと、福の助と亮子が細かな注釈を始め、読者にも推理と真相が理解できるのである。
この迂遠なルートは、しかし本当に手が込んでいて素晴らしい。古典落語と推理が有機的に結合しており、演目の構造が謎・推理・真相を見事に隠喩しているのは圧巻である。事件そのものも複数のプロットが絡み合い、なかなか複雑だし、恐るべきことに落語についても、新しいサゲを持ち出してくるなど徹底的にこだわるのだ。これは極めて強い思い入れと高度なテクニックを要する技であり、正直圧倒された。
謎・推理・真相も水準以上だが、本書を佳品たらしめているのは、疑いもなくこの特殊な構造である。本格ファンには強くおすすめしたい。