不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

アインシュタイン交叉点/サミュエル・R・ディレイニー

アインシュタイン交点 (ハヤカワ文庫SF)

アインシュタイン交点 (ハヤカワ文庫SF)

 地球から人類が消えて幾星霜。代わりに、異星出身の知性体(多分)が、牧畜ベースに、若干原始的な生活を謳歌していた。そんな中、素晴らしい音楽を奏でることができるロービーは、友人(想っていた異性?)の死をきっかけに、旅に出る……。
 グルーヴ感が実に素晴らしい作品。そして大量のメタファーらしき事柄と、シンボルらしき事柄。登場人物たちが人間ではなく、人類文明の衣鉢を継ぎつつも、どこか違っていて謎、という感覚が非常によく出ている。合間に挟まれる、本作を書いている際のディレイニー自身の日記的随想と思われる部分もいとをかし。構造的にも主題設定的にも、実に重層的な作品であると言えるだろう。
 というわけで、深読みすればいくらでもできそうだが、過度に能動的な深読みは、作者がやりもしなかったことまで幻視する危険性がある。というわけで、私自身はただただテキストに淫した。自分のスペックの低さが恨めしい。
 とはいえ、非常な傑作であり、素晴らしい作家であることは間違いない。手に入りやすい内にゲットしておくべき作品である。